
脱炭素化の進展に伴い、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが急速に普及しています。一方で、従来の電力系統を支えてきた火力発電所や原子力発電所は徐々に役割を変えつつあります。こうした変化の中で課題となるのが、電力系統の周波数や電圧を誰が安定的に維持するのかという点です。
これまで大型発電機が担ってきた役割を、再エネ中心の社会でどのように代替するかが世界共通のテーマとなっており、その解決策としてグリッドフォーミング技術への期待が高まっています。
従来の電力系統との違い
これまでの電力系統は、大型の同期発電機が回転することで自然に周波数や電圧の基準を形成していました。太陽光発電や風力発電はインバーターを介して電力を供給しますが、多くは既存の系統に追従する「グリッドフォロウィング方式」です。
そのため、周波数や電圧の基準となる電源が存在しなければ安定して動作できません。グリッドフォーミングはこれとは異なり、インバーター自体が基準を作り出すことができるため、再エネ主体の電力網でも安定した運用を実現できる技術として注目されています。
蓄電池との相性が良い理由
グリッドフォーミングを実現するうえで、蓄電池は非常に重要な存在です。蓄電池は電力の充放電を瞬時に切り替えられるため、周波数や電圧の変動に対して高速に応答できます。発電量と需要のバランスが崩れた場合でも、数ミリ秒単位で出力を調整し、系統の安定化を支援できます。
また、従来の発電機が持っていた慣性効果をソフトウェアで再現する「仮想慣性」の提供も可能であり、再エネ比率が高まる将来の電力系統において欠かせない役割を担うと期待されています。
次世代電力網を支える重要技術
再エネ比率がさらに高まる将来、電力系統の安定運用には新しい制御技術が不可欠になります。グリッドフォーミングは、単なる蓄電池制御技術ではなく、再エネ主体の電力網そのものを成立させるための基盤技術です。海外ではすでに実用化が進み、日本でも実証や制度整備が本格化しています。
本記事では、グリッドフォーミングの基本的な仕組みから、従来技術との違い、蓄電池との関係、そして今後の電力システムに与える影響までをわかりやすく解説します。
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蓄電池の「グリッドフォーミング」とは?

電力系統の「基準」を自ら作り出すインバーター技術
グリッドフォーミング(Grid-Forming)とは、インバーター(直流から交流に変換する装置)が電力系統の電圧と周波数の「基準」を自ら作り出し、独立して安定した電力供給を実現する制御技術です。
従来の電力系統では石炭・天然ガス・原子力発電所の大型同期発電機(タービンを回転させて発電する機械)が、その物理的な回転の慣性によって自然に系統の周波数(日本では50Hz・60Hz)を安定させる役割を担ってきました。これは「グリッドフォロウィング(Grid-Following:既存の系統の基準に追従する)」という従来型のインバーター制御とは根本的に異なるアプローチです。
太陽光発電・風力発電・蓄電池に使われる従来型のインバーターはグリッドフォロウィング方式であり、既存の系統の周波数・電圧を検知してそれに合わせて電力を出力するだけで、自ら基準を作り出すことはできません。
なぜグリッドフォーミングが必要とされるのか
グリッドフォーミングが必要とされる背景には、再生可能エネルギーの急速な普及による電力系統の構造変化があります。脱炭素化を進めるために石炭・天然ガス火力発電所が削減されると、電力系統の周波数を自然に安定させてきた大型同期発電機の「慣性」が失われていきます。
太陽光・風力発電は従来型のグリッドフォロウィングインバーターを使用しているため、系統の基準となる周波数・電圧が存在しなければ正常に動作できません。つまり再エネ比率が一定以上(専門家の試算では地域によって50〜100%)に達すると、従来型のインバーターだけでは電力系統そのものが維持できなくなるリスクが生じます。
グリッドフォーミング技術はこの問題を解決し、再エネと蓄電池だけで構成された電力系統でも安定した周波数・電圧を維持できるようにする、再エネ100%社会の実現に不可欠な基盤技術です。
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グリッドフォーミングと蓄電池の関係

蓄電池がグリッドフォーミングに最適な理由
グリッドフォーミング機能の実装には、瞬時に大電力を充放電できる電源が必要であり、蓄電池はこの要件に極めて適しています。系統の周波数が乱れた瞬間(発電所の急な停止・大規模な需要変動など)に、グリッドフォーミングインバーターは数ミリ秒〜数十ミリ秒という極めて短い時間で電力の出力を調整し、系統の周波数・電圧を安定化させる必要があります。
蓄電池はこの高速応答性において他の電源(火力発電所など、応答に数秒〜数分かかる)より圧倒的に優れています。また蓄電池は充電・放電の両方向に瞬時に切り替えられるため、周波数が高すぎる場合(電力過剰)には充電して吸収し、低すぎる場合(電力不足)には放電して補うという双方向の調整が可能です。
この特性から、系統用蓄電池はグリッドフォーミング機能の実装における最有力な技術として世界各国で実証・導入が進んでいます。
仮想慣性(バーチャルイナーシャ)の提供
グリッドフォーミングインバーターの重要な機能のひとつが「仮想慣性(バーチャルイナーシャ:Virtual Inertia)」の提供です。従来の同期発電機はタービンの物理的な回転(慣性)によって、急激な周波数変動に対して自然に抵抗する性質(慣性応答)を持っていました。
この慣性が電力系統の安定性を支える重要な要素でしたが、インバーターには物理的な回転部分がないため本来この慣性がありません。グリッドフォーミング技術はソフトウェア制御によって、あたかも物理的な慣性があるかのように振る舞う「仮想慣性」を人工的に生み出します。
これにより周波数が急激に変動する事態を防ぎ、再エネ・蓄電池中心の電力系統でも従来の同期発電機中心の系統と同様の安定性を実現できます。仮想慣性の精度と応答速度はグリッドフォーミング技術の性能を左右する重要な指標です。
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系統安定化への具体的な効果

ブラックスタート能力:停電からの自律的な復旧
グリッドフォーミング技術がもたらす重要な効果のひとつが「ブラックスタート(Black Start)」能力です。ブラックスタートとは、大規模停電が発生して電力系統全体が完全に停止した状態から、外部電源に頼らず自律的に電力供給を再開する能力です。
従来は専用のディーゼル発電機などを持つ一部の大型発電所だけがブラックスタート能力を持っていましたが、グリッドフォーミング機能を持つ蓄電池はこの能力を提供できます。蓄電池が自ら電圧・周波数の基準を作り出して電力供給を開始し、そこに他の発電設備(太陽光・風力)を順次接続していくことで、大規模停電からの復旧プロセスを迅速化できます。
2018年の北海道胆振東部地震で発生した北海道全域のブラックアウト(系統崩壊)のような事態への対策として、グリッドフォーミング蓄電池の活用が検討されています。
再エネ大量導入時代の系統信頼性を支える
グリッドフォーミング技術は再エネが電力系統の主力電源となる将来において、系統全体の信頼性を支える基盤技術として位置づけられています。
オーストラリア・南オーストラリア州ではすでに大規模なグリッドフォーミング蓄電池(テスラ製含む)が実用化されており、再エネ比率が極めて高い(瞬間的に100%に達することもある)電力系統の安定運用を実現しています。英国・米国でも同様の実証プロジェクトが進行中です。
日本でも経済産業省・電力広域的運営推進機関(OCCTO)がグリッドフォーミング技術の評価・制度整備を進めており、今後の系統用蓄電池の導入においてグリッドフォーミング機能の搭載が標準的な要件になっていく可能性があります。
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EVのグリッドフォーミング技術導入の課題と展望

技術的・制度的な課題
グリッドフォーミング技術の本格普及にはいくつかの課題が残されています。技術的には、複数のグリッドフォーミングインバーターが同じ系統内に存在する場合の協調制御(互いに競合せず安定して動作させる制御アルゴリズム)の確立がまだ発展途上です。
また大規模な系統でのグリッドフォーミング動作の実証データはまだ限定的であり、様々な異常事態(大規模需要変動・複数地点での同時故障など)への対応能力の検証が必要です。制度面では、電力系統運用者がグリッドフォーミング機能の価値をどのように評価し、対価を支払う仕組みを設計するかが課題です。
従来の電力市場制度は同期発電機を前提に設計されているため、グリッドフォーミング機能という新しい価値を適切に評価する市場メカニズムの整備が世界各国で進められています。
日本における導入の方向性
日本においてもグリッドフォーミング技術への関心は急速に高まっています。再エネ主力電源化を目指す日本のエネルギー政策の中で、太陽光発電の導入拡大とともに系統の慣性低下が将来的な課題として認識されており、グリッドフォーミング蓄電池の研究・実証プロジェクトが各地で進められています。
離島など独立した小規模電力系統(マイクログリッド)では、すでに再エネ比率が非常に高くなっている地域もあり、グリッドフォーミング技術の実証フィールドとして活用されています。今後、本土の大規模電力系統においても再エネ比率の上昇に伴い、グリッドフォーミング機能を持つ系統用蓄電池の導入が段階的に拡大していく見通しです。
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まとめ:グリッドフォーミングは再エネ100%時代の系統の要
グリッドフォーミングは未来の電力網を支える基盤技術
グリッドフォーミングは、蓄電池やインバーターが自ら電圧や周波数の基準を作り出すことで、電力系統を安定的に運用するための技術です。再生可能エネルギーの普及によって、従来の火力発電や原子力発電が担ってきた系統安定化機能の重要性が高まる中、その代替手段として大きな期待が寄せられています。
再エネ比率がさらに高まる将来において、グリッドフォーミングは電力網を支える中核技術のひとつになると考えられています。
蓄電池の高速応答性が大きな強み
グリッドフォーミングを実現するうえで、蓄電池は非常に相性の良い設備です。周波数や電圧が変動した際に、瞬時に充放電を切り替えられるため、系統の乱れを素早く抑制できます。
また、従来の大型発電機が持つ「慣性」をソフトウェアで再現する仮想慣性機能も実装しやすく、再エネ主体の電力システムに不足しがちな安定性を補う役割を果たします。蓄電池は単なる電力の貯蔵設備ではなく、系統を支える重要なインフラへと進化しつつあります。
停電復旧や災害対策にも貢献
グリッドフォーミングの価値は、平常時の系統安定化だけではありません。大規模停電が発生した際には、自ら電圧と周波数を形成して電力供給を再開できる「ブラックスタート能力」を発揮できます。
これにより、外部電源に依存せず復旧作業を開始できるため、災害時のレジリエンス向上にも大きく貢献します。今後は再エネ導入拡大と防災対策の両面から、グリッドフォーミング機能を備えた系統用蓄電池の重要性がさらに高まると予想されています。
海外で先行導入、日本でも普及へ
オーストラリアや英国では、すでにグリッドフォーミング機能を持つ大規模蓄電池が実用化され、再エネ比率の高い電力系統の安定運用に活用されています。日本でも再エネ主力電源化を進める中で、系統の慣性不足や周波数安定化への対応が重要課題となっており、実証や制度整備が進められています。
将来的には、グリッドフォーミング機能が系統用蓄電池の標準仕様となる可能性もあり、次世代電力網の実現を支える重要技術として注目されています。
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蓄電池の「グリッドフォーミング」とは?Q&A よくある質問
Q1. 家庭用蓄電池にもグリッドフォーミング機能はありますか?
現時点では家庭用蓄電池の標準機能としてグリッドフォーミングが搭載されているケースは限定的です。グリッドフォーミングは主に大規模な系統用蓄電池での実装が先行しています。ただし家庭用蓄電池の自立運転モード(停電時に宅内の電力系統を独立して運用する機能)は、グリッドフォーミングと同様の原理(自ら電圧・周波数の基準を作る)を小規模に実現していると言えます。
技術の発展とともに将来的には家庭用蓄電池にも本格的なグリッドフォーミング機能が搭載される可能性があります。
Q2. グリッドフォーミングとグリッドフォロウィングはどちらが優れていますか?
どちらか一方が優れているというものではなく、電力系統には両方の機能が適切な比率で必要とされています。グリッドフォロウィングは既存の安定した系統に効率よく電力を供給するのに適しており、グリッドフォーミングは系統の安定性そのものを作り出す役割を担います。
再エネ比率が低い段階ではグリッドフォロウィングのみで十分機能しますが、再エネ比率が高まるにつれてグリッドフォーミング機能を持つ電源の比率を増やしていく必要があります。両者の最適な組み合わせ比率は電力系統の構成によって異なります。
Q3. EVの大量普及はグリッドフォーミングにどう関係しますか?
EVは現時点では主にグリッドフォロウィング型の充放電制御が一般的ですが、将来的にはV2GやVPPと連携したEVの集合体が、限定的なグリッドフォーミング機能を提供する可能性が研究されています。多数のEVが協調制御されることで、個々のEVは小規模でも合計すると系統安定化に寄与できる仮想的な慣性源となる可能性があります。
ただし車両という移動体の特性上、固定設置された系統用蓄電池ほどの安定したグリッドフォーミング機能を提供するには技術的な課題が残っており、今後の研究開発の進展が注目されます。

執筆・監修者:エコ発電本舗 太陽光・蓄電池・V2H専門チーム
本記事は、太陽光発電・蓄電池・V2Hの施工・販売に携わる専門チームが執筆・監修しています。各メーカーの施工ID保有者やMBA、宅地建物取引士などの有資格者が、豊富な施工実績と最新の業界情報をもとに、信頼性の高い情報をわかりやすく解説いたします。

























